by
Inner Library Editorial Team
2026/03/17

「なぜかいつも、自分を傷つける相手ばかり選んでしまう」「環境を変えても、結局同じような人間関係のトラブルが起きる」
こうした繰り返される困難に直面した時、「運が悪い」「周りの環境のせいだ」と考えるかもしれません。しかし心理学の視点で見ると、そこには「トラウマの再演」と呼ばれる、心のメカニズムが隠れていることが少なくありません。
過去のトラウマを、なぜ現在の生活の中で繰り返してしまうでしょうか?
トラウマの再演とは何か
トラウマの再演とは、過去に経験した圧倒的な苦痛や無力感を、無意識のうちに現在の人間関係や状況の中で再現してしまう現象を指します。
本人はその苦痛を二度と味わいたくないと願っているはずなのに、気づくと過去と同じような「馴染みのある困難」の中に身を置いてしまう。一見すると不合理に思えますが、心の奥底では「未解決のまま残っている心の傷を、今度こそ自分の力で処理したい」という、無意識の欲求が潜んでいます。
過去を乗り越えたいという願い
なぜ、あんなに嫌だったはずの状況を繰り返してしまうのでしょうか。その理由の一つに、かつての無力感に対する無意識の抵抗があります。
幼少期など、自分に力がなかった時に負った心の傷は、深い無力感となって残ります。大人になってから当時と似た状況を自ら作り出すのは、「今度こそ正しくやり遂げることで、過去の結末を書き換えたい」という願いの現れでもあります。
かつてはなす術もなく傷つくだけだった受動的な立場から、今度は自らが状況をコントロールし、克服する立場へ回ろうとします。こうした「今度こそ、自分の手で問題を解決したい」という衝動が、結果として自分を同じ状況へ突き動かすのです。
再演で現れる2つの役割
トラウマの再演は、主に「受動的」と「能動的」という2つの異なる役割として現れます。どちらも、過去の体験を乗り越えようとする試みと言えます。
過去を繰り返す受動的な役割
かつての自分と同じように、傷つけられたり、粗末に扱われたりする立場に再び身を置く状態です。 客観的に見れば苦しい状況ですが、「未知の平穏」よりも、結末が予測できる「既知の苦痛」の方が、安全だと錯覚してしまう心理が働いています。変化への恐怖を避けるために、慣れ親しんだ苦しい環境を無意識に選び取ってしまうのです。
過去の加害者を演じる能動的な役割
かつて自分が被害を受けた状況で、今度は自分が加害者や支配者の役割を演じる状態です。 これは、当時の「なすすべもなかった無力感」を払拭し、今度こそ状況を自分の手でコントロールしたいという欲求の現れです。誰かを支配したり攻撃したりする側に回ることで、自分の中にトラウマを打ち消そうとする、一つの防衛反応と言えるかもしれません。
恋愛における再演
この現象が最も現れやすいのが、パートナーとの関係性です。
「見てもらえない」経験の再現
自己愛的な親に育てられ、自分を見てもらえなかった経験から、あえて自分に関心を示さない冷淡な相手をパートナーに選ぶことがあります。心の底では「今度こそ愛を手に入れたい」という願いが原動力となっています。
「救えなかった」無力感の再現
依存症などを抱えた親を救えなかった負い目から、問題を抱えた「世話」を必要とする相手をパートナーに選ぶことがあります。相手を救うことで過去を解消しようとしますが、実際には救えない現実に直面し、燃え尽きてしまうことも少なくありません。「否定される」日常の再現
否定的な親のもとで育った影響から、自分を否定する相手をパートナーに選ぶことがあります。再び批判される日々を繰り返しますが、これは「期待通りに否定される」という予測可能な環境に、無意識の安らぎを感じてしまっているかもしれません。
これらは過去の傷を「癒そう」とする試みですが、多くはさらなる傷を作る結果を招いてしまいます。
トラウマの再演を断ち切るために
トラウマの再演は、単なる不運や性格の問題ではありません。それは、かつて味わった圧倒的な無力感をどうにかして乗り越えようとする、無意識の懸命な努力の現れでもあります。
人間関係における不適切な選択や、自分を追い込んでしまう行動パターン。これらはすべて、かつて自分を守るために必要だった「鎧」のようなものです。しかし、その鎧がいつの間にか自分を閉じ込め、現在の自由を奪ってしまっているのかもしれません。
再演のループを断ち切るには、自分を責めるのをやめ、その行動の背後にある「生き残ろうとした自分」に気づき、肯定することから始まります。
Reference
Van der Kolk, B. A. (1989). The compulsion to repeat the trauma. Psychiatric Clinics of North America.


