Self-Discovery

大切なものを失って喪失感を感じる?心のプロセスと向き合い方について

大切な人やものを失った時、様々な感情が押し寄せてきます。喪失後の心はどのように動き、どうすれば自分らしいペースで前に進めるのでしょうか?

by

Takaya Yoshinaka

3/8/25

ファクトチェック済み

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本記事は査読付き学術論文および実証研究に基づいています。

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喪失の痛みは、誰にでも訪れる自然な経験

誰にでも、大切な人やもの、機会を失う経験があります。それは、愛する人との別れ、仕事の喪失、関係性の終わり、あるいは大切にしていた夢や希望が叶わなかった時かもしれません。そんな時、私たちの心には様々な感情が押し寄せてきます。

こうした喪失体験は一人ひとり異なるものですが、その過程で感じる感情には共通するパターンがあることがわかっています。この記事では、喪失と向き合うときの心の動きと、その過程を少しでも穏やかに進むためのヒントをお伝えします。

喪失後の5つの段階って?

心理学者のエリザベス・キューブラー・ロスは、人が喪失と向き合う時に経験する感情の動きを「5つの段階」としてまとめました。これは最初、終末期の患者さんの心理プロセスとして研究されましたが、その後あらゆる形の喪失体験に当てはまることがわかってきています。

大切なのは、これらの段階は必ずしも順番通りに進むものではなく、人によっては特定の段階を経験しなかったり、何度も行ったり来たりすることもあるということです。あくまで参考として知っておくと、自分や大切な人の感情を理解する助けになるかもしれません。

1. 否認 「これは現実じゃない」

突然の喪失に直面したとき、多くの人がまず感じるのは現実を受け入れられない感覚です。

例えば、大切な人を亡くした時、「電話がかかってきて、全部間違いだったと言われるかもしれない」と思ったりします。

別れた恋人が「やっぱり戻ってくるかもしれない」と考えることもあるでしょう。

この段階では、ショックから心を守るために、一時的に現実から距離を置くことがあります。時には何も感じない麻痺状態になることもあります。

これは心が自分のペースで現実と向き合うための自然な反応です。

2. 怒り 「なぜこんなことが?」

否認の感覚が薄れてくると、多くの場合、激しい怒りの感情が現れることがあります。「なぜ私が?」「何のためにこんなことが起きるの?」という疑問が浮かびます。

周囲の人、状況、時には失ったものに対してさえ怒りを感じることがあるでしょう。この怒りは、時に自分自身を驚かせるほど強いものかもしれません。

また、怒りを感じることに対して罪悪感を抱くこともあるでしょう。しかし、この感情もまた、癒しの過程の一部です。

怒りの裏には深い痛みがあります。そして、否認の段階で世界から切り離されていた心が、再び感情を通して世界とつながり始める兆しでもあるのです。

3. 取引 「もし〜なら」

取引の段階では、何かと引き換えに失ったものを取り戻せるのではないかという思いが生まれます。「もう二度と怒らないから」「毎日努力するから」というような考えです。

これは、コントロールを失った状況の中で、少しでも自分の力で何かを変えられるかもしれないという希望を持ちたいという自然な願いから生まれます。

この段階では、「あの時こうしていれば」という後悔や自責の念を感じることもあります。これらの感情も、喪失と向き合い、それを受け入れていく過程の一部です。

4. 落ち込み 「何もする気が起きない」

喪失の現実と向き合い始めると、深い悲しみや虚無感を感じることがあります。この段階では、疲れやすくなったり、集中力が低下したり、食欲がなくなったりすることもあります。

この「落ち込み」は、メンタルヘルスの問題としての「うつ」とは異なります。喪失に対する自然な反応として、一時的に感じるものです。大切なものを失った後に深い悲しみを感じることは、むしろ健全な反応と言えるでしょう。

5. 受容 「これが現実なんだ」

受容は、失ったことが「OK」だと思えるようになることではありません。むしろ、その現実を認識し、新しい状況の中でどう生きていくかを少しずつ考え始める段階です。

この段階では、時に友人や家族と過ごすことに心地よさを感じることもあれば、一人でいたいと思うこともあるでしょう。また、受容の段階に到達したと思っても、また別の段階に戻ることもあります。このような行き来も自然なことです。

時間の経過とともに、この受容の状態にいる時間が長くなっていくかもしれません。それは、もう二度と悲しみや怒りを感じないという意味ではなく、その喪失とともに生きる方法を見つけ始めているということです。

喪失と向き合うために

喪失との向き合い方は人それぞれです。以下に、この困難な時期を少しでも穏やかに過ごすためのいくつかの考え方をご紹介します。

自分の感情をそのまま受け止める

喪失後に感じる感情は、どんなものであれ「正しい」ものです。悲しいときもあれば、怒りを感じるときもあるでしょう。時には罪悪感や安堵感さえ生まれるかもしれません。

これらの感情を否定せず、「今はこう感じている」とそのまま受け止めてみましょう。感情を抑え込もうとすると、かえって長引くことがあります。

自分のペースを尊重する

「もう立ち直るべき時間だ」「もう前を向くべきだ」という周囲や自分自身からのプレッシャーを感じることがあるかもしれません。しかし、喪失からの回復に「正しいタイムライン」はありません。

あなた自身のペースで感情と向き合い、少しずつ前に進んでいくことが大切です。時には立ち止まることも、時には後戻りすることもあるでしょう。それもすべて回復の過程の一部です。

自分を労わる時間を作る

喪失を経験している時は、特に自分自身を労わることが重要です。十分な睡眠、バランスの取れた食事、軽い運動など、基本的なセルフケアを心がけましょう。

また、散歩する時間、好きな音楽を聴く時間、温かい飲み物を飲む時間など、小さな癒しの瞬間を日常に取り入れてみてください。

つながりを大切に

誰かに話を聞いてもらうことで、心の重荷が少し軽くなることがあります。信頼できる友人や家族に気持ちを打ち明けてみましょう。

話したくないときは、ただ一緒にいてもらうだけでも心強いものです。自分の気持ちや必要としていることを正直に伝えることで、周囲の人もどうサポートしたらいいのかわかりやすくなります。

サポートを求めるタイミング

喪失との向き合いが特につらいとき、専門的なサポートを求めることも選択肢の一つです。以下のような場合は、カウンセリングや支援グループなどの助けを借りることを検討してみてもいいかもしれません。

  • 日常生活に戻ることが難しく、集中力が持続しない

  • 誰かの保護者や主な支援者である(例:一人親や介護者)

  • 身体的な不快感や痛みを感じる

  • 食事や薬を飲むことを忘れがちになる

  • 感情が時間とともに和らぐのではなく、強くなっていく

  • 自分や他者を傷つけることを考える

自分のペースで、一歩ずつ前へ

喪失とその後の感情の波は、誰にとっても深く個人的な経験です。キューブラー・ロスの5段階は、この複雑なプロセスを理解するための一つの枠組みを提供してくれますが、あなた自身の経験は唯一無二のものです。

大切なのは、自分の感情を認め、自分のペースで前に進むことです。そして必要なときには、周囲の人や専門家のサポートを求めることをためらわないでください。

喪失の痛みが癒えていくには時間がかかります。

しかし、少しずつですが、あなたはその痛みとともに生きる方法を見つけ、再び前を向いて歩み始めることができるでしょう。

References

References

  • Kübler-Ross, E., & Kessler, D. (2005). On Grief and Grieving: Finding the Meaning of Grief Through the Five Stages of Loss. Scribner.

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